家族のお墓を守っている人も、歳を重ねるごとにお墓参りが大変になってきます。
そんな時に考えられるのが、より近い場所や手のかからない霊園に遺骨を移す「墓じまい・改葬」です。
通常のお墓のように管理費用がかからなければ、初期費用だけでそれ以上のお金が取られることはありません。
また、遠方のお墓から近くのお墓に移すだけでも、毎年のお墓参りの負担は軽減するでしょう。
しかし、具体的に墓じまいにはいくらかかるかをご存知ない人もいるでしょう。
そこで今回は、墓じまいにかかる費用の相場と、その費用が払えない時の対処法を解説します。
墓じまいとは
墓じまいとは、お墓を解体・撤去して墓地を更地にすることです。
更地に戻したあとは管理者(寺院・霊園)に返還します。
中に入れていた遺骨を別の場所に移すため「改葬」ともいわれます。
お墓が維持できない要因
維持費が払えない
お墓は一度建てたらそれで終わりではありません。
そこにお墓が建っている限り、費用(管理料)がかかります。
お墓の管理料は1年で1万円前後ですが、そこに加えて法要のたびにお布施がかかることも忘れてはいけません。
この維持費やお布施が払えないことが、墓じまいのきっかけの1つです。
お墓参りが大変
お盆、春・秋のお彼岸、故人の命日と最低でも年4回はお墓参りのタイミングがあります。
熱心な人は「月命日」にお墓参りすることもあるでしょう。
昔ながらの寺院のお墓の場合、山の麓にあることも珍しくありません。
お墓参りを熱心にしている人であっても、いつかは歳を重ねることで足腰が弱くなります。
少子高齢化で地方では若者が東京に出てしまうことでの過疎化もあり、特に地方ではお墓参りの後継者が少なくなっています。
遠くから近くの寺院へ改葬しても、お墓参りが難しいこともあるでしょう。
そんな時は無縁仏にさせないための合祀などの選択肢として墓じまいが挙がります。
納骨堂も33年など一定期間が経過すれば合祀してもらえるため、無縁仏になる心配はありません。
墓じまいにかかる費用の相場
お墓の解体
お墓の解体工事の相場は、1㎡あたり10万円前後が相場です。
最終的に20~30万円程度になることが多いようです。
ただし、「山の斜面で工事が難しい」「狭くてクレーン車が入らない」「寒冷地で基礎が頑丈」などの理由があるが場合は割り増しで費用が発生します。
お墓を解体するだけでなく、お墓を撤去する、墓地を更地にする、墓石の処分までがワンセットです。
また、上記の金額はあくまでも相場です。
石材店や解体業者によって費用は大きく異なるため、複数の業者に見積もりを依頼して住まいの地域の相場を確認しましょう。
霊園や寺院によっては石材店が指定されることもあります。
閉眼供養
別名「魂抜き」とも呼ばれます。
墓じまいをして移転する際に、これまでのお墓に宿っている故人の魂を抜くことです。
お墓には故人の魂が入っているため、そのままでは撤去することができません。
文字通り「仏様の目を閉じるという意味」の閉眼供養で魂を抜くことではじめて、お墓を撤去できるようになります。
閉眼供養のお布施の金額は、寺院ごとに異なりますが3万円~6万円が一般的です。
僧侶がクルマで移動する場合は「御車代」として5,000円前後を包むほか、会食はしないとしても御膳料5,000円程度を包んでおくものとされています。
離檀料
ひとくちに墓じまいといっても、「霊園」と「寺院」でも費用相場が異なり、寺院墓地であれば離檀料がかかります。
「離檀」とは、お寺が管理する墓地からお墓を撤去してお寺との付き合いをやめることです。
その際に寺院に渡すお布施として納めるのが離檀料です。
相場は「法要の1~3回分」とされています。
今までの法要で渡していたお布施の金額から計算すれば良いでしょう。
3~20万円程度と、それまでのお布施の金額で相場は大きく変わります。
ほかのお布施などもそうですが、基本的に寺院は金額を指定する権利はありません。
「いくら包めばいいのか?」と聞いても「お気持ちで結構です」と言われてしまいます。
そのため、お布施の金額を聞く時は相場感を聞くようにするとスムーズです。
「みなさんは、いくらくらい包まれていますか?」といった聞き方が良いでしょう。
寺院によっては離檀料を受け取っていないケースもあります。
納骨先によって費用が変わる
個別のお墓
新しい寺院や霊園のお墓に遺骨を移して「改葬」する方式です。
墓石の大きさや墓地の面積によって費用は大きく異なります。
最大で300万円近いお金がかかることもあるでしょう。
住宅で言えば「一戸建て」にあたり、ほかの家庭の遺骨と一緒になることがないのが最大のメリットです。
反面、管理する人がいなくなった場合、誰にも手を合わせてもらえない「無縁仏」になってしまう心配もあります。
民間墓地より公営墓地のほうが費用は割安ですが、お墓の数に限りがあります。
総じて人気が高く、抽選になることが珍しくありません。民間のほうが「送迎バス」があるなどサービスが充実している場合もあります。一概に公営のほうが良いとは限りません。
納骨堂
納骨堂は、建物の中で遺骨を保管してくれる場所のことです。
個別の方が一戸建てなら、こちらはアパートにあたります。
個別の墓に比べてマイナーですが、「雨風にさらされない」「掃除は基本的にスタッフがやってくれる」などメリットもあります。
ひとくちに納骨堂といっても、以下のようにいくつかのスタイルに分かれるのが特徴です。
- 仏壇型
- ロッカー型
- 位牌型
- 自動搬送型
どのタイプを採用しているかによって費用は異なります。
例えば小型の仏壇の下に骨壺を納める「仏壇型」は面積が必要なために費用が比較的高めです。
安いタイプでは20万円、高いと100万円を超えるでしょう。
一方で遺骨が一ヶ所に集められて、機械の操作によってお参りスペースに現れる「自動搬送型」は費用が比較的安めに設定されており、都心など地価が高い地域で採用されます。
樹木葬
「永代供養」といわれる方式の1つです。
樹木葬は石ではなく、樹木でできた「墓標」を使って埋葬を行います。
自然に近い形で埋葬されたいと感じる人に人気が出ている方法です。
改装費用は幅が大きく、最大で100万円を超えることもあります。
また、自然の里山を利用した「里山型」は、都市部から離れた場所にあるためアクセスが大変というデメリットがあります。
反面、費用は安めで、都市部から離れていることで周囲も自然に囲まれている点が魅力です。
合祀墓
合祀とは、ほかの人の遺骨と一緒に埋葬する方法です。
個別にスペースを必要としないため、費用を安く抑えることが可能です。
相場は30万円前後といわれています。
永代供養の1つであり、霊園の管理者がいるために無縁仏になる心配がありません。
宗派も関係なく利用できることが多く、通常通りの墓参りも可能です。
ただし、「他人の遺骨と一緒に埋葬される」という他の埋葬方法にない特徴もあります。
個別に遺骨を取り出すことはできなくなるため、故人の最後の埋葬場所としてふさわしいかはよく考える必要があるでしょう。
散骨
散骨は文字通り、骨を撒いてしまう方法です。
散骨業者に依頼することで山や川、海などに個人の遺骨を散骨できます。
樹木葬はあくまで自然の中で埋葬される方法ですが、こちらはまさに「自然に還る」方法です。
費用は数万円~30万円程度といわれています。
散骨を選択すれば、お墓をもつ必要も守る必要もありません。
ゆえに居住地がお墓に縛られることはなく、遺族が自由に居住地を選択できます。
故人が「海が好きだった」「山が好きだった」という場合は検討したい方法です。
お墓を放置するとどうなる?
お墓を放置して「管理料」の支払いが滞ると、一定期間経過後に手続きを経て最終的には墓地の管理者に撤去されて遺骨が合祀墓に移されます。
墓地の管理者から墓地の名義人に連絡がとれた場合は、滞納分の管理料や改装に要した費用を請求されることもあります。
墓じまいの費用を払えない時の対処法
家族の協力を得る
祖父母や両親の墓を守っていく時、費用の心配を1人で抱え込む必要はありません。
兄弟がいれば相談してみると良いでしょう。お墓は個人ではなく「一族で守っていくもの」です。
費用がどれだけかかるのかをしっかりと説明し、協力を求めましょう。
ただし、墓じまいをすることや改葬先について反対意見が出ることもあります。
自分が希望する期限までに墓じまいできるように、早いうちから兄弟間で話し合いをしておくことが大切です。
嫁ぎ先と両家墓を作る
今のお墓を撤去して、遺骨を嫁ぎ先のお墓に入れて「両家墓」にしてもらう方法です。
遺骨を墓石の墓に埋葬したあと、親戚同士で協力して墓参りができます。
ただし、「嫁いだ先が長男」で本家のお墓を守っているようなパターンでは、難しいこともあります。
できるだけ安い改葬方法を選ぶ
寺院や改葬方法によって必要な費用はさまざまです。
「樹木葬」「納骨堂」「合祀墓」などは比較的安めの費用で改葬できます。
逆に建物の一戸建てにあたる個別墓の費用は最大で300万円を超えることも珍しくありません。
改葬しても、改葬前と同じく新しい寺院へのお布施が発生します。
納骨堂ではいくつかのタイプに分かれていますが「仏壇型」などの利用面積が大きいタイプは費用が高い傾向があります。
東京都のような地価が高いところの納骨堂では「自動搬送式」が人気です。
最低限のお参りスペースで墓参りができるため、費用は比較的割安になります。
永代供養や散骨の場合は初期費用がかかりますが、以降の管理費は必要ありません。
継続して費用を払うことが難しい場合には初期費用だけで済むこれらの方法も検討しましょう。
メモリアルローンを組む
銀行によっては、お墓に関連することに使える「メモリアルローン」を契約することで現金を借り入れることができます。
お墓を立てる際の費用で使われることが一般的ですが、墓じまいでも審査を通過できる可能性があります。
例えば千葉銀行のメモリアルローンでは、来店不要の「WEB完結」で申し込みから借り入れが可能です。
千葉銀行 メモリアルローン | |
金利(実質年率) | 年5.00~5.20% |
借入金額 | 最大500万円 |
返済期間 | 最長10年 |
保証人・担保 | 不要 |
利用使途 | お墓・仏具、葬儀などあらゆる費用 |
カードローンを利用する
カードローンは、フリーローン等とおなじく使途自由なローンであり、墓じまいの費用にも利用できます。
メモリアルローンとの違いは「契約時に利用限度額が設定されることです。
設定された利用限度額まで何度でも借り入れが可能で、もし借入限度額がゼロになったとしても一部でも返済すれば枠が復活してまた借りられるようになります。
大きく分けて「銀行」と「消費者金融」の2種類の提供元がありますが、以下のように特徴が異なります。
スペック | 銀行カードローン | 消費者金融 |
---|---|---|
金利の相場(実質年率) | 2.0~15.0%程度 | 3.0~18.0%程度 |
審査スピード | 最短翌営業日 | 最短即日 |
無利息サービス | 原則なし | あり |
限度額 | 800万円程度 | 500~800万円 |
急いでいるなら即日融資可能な消費者金融、できるだけ返済総額を安くしたいなら金利が低い銀行カードローンが適しています。
自治体の補助金を申請する
自治体によっては墓じまいについて補助金が出ることがあります。
例えば群馬県太田市の「八王子山公園墓地墓石撤去費用助成金」の制度を紹介しましょう。
1.助成金の対象者
平成31年4月1日以降に八王子山公園墓地の返還届を提出し、墓石の撤去が完了した利用者であっ
て、八王子山公園墓地の管理料の滞納がない方
2.助成金額
祭祀費用を除く墓石撤去に係る費用として支払った額の総額又は20万円のいずれか低い方の額
※祭祀費用 納骨等の祈祷、法要等の墓石撤去に直接関わらない費用
ただし、国の制度ではないため自治体によって補助の内容は異なります。まずは自治体の公式ホームページなどから補助金の有無や内容を確認しましょう。
まとめ
今までお世話になった寺院との付き合いをやめるには「離檀料」というお布施を払うのが一般的です。
また、閉眼供養や墓地を返還するための工事費用も発生します。
さらに、改葬先の寺院・霊園などで必要な費用を合わせると100万円を超えることも珍しくありません。
もし支払いが難しそうであれば民間金融機関の「メモリアルローン」「カードローン」や、自治体の補助金を活用するなどの方法でお金を捻出できないか考えていきましょう。