生活保護

生活保護は医療費がかからない|医療扶助のメリットと問題点を解説

 

生活保護では普段の生活費に「生活扶助」、家賃の支払いに「住宅扶助」など、必要に応じたサポートを受けることができます。

もし入院や通院などをした場合に、医療費を現物支給するのが「医療扶助(いりょうふじょ)」です。

しかし、一般人が3割負担のところ、無料で診療を受けられてしまうことに周囲から不満の声があることも事実です。

また、受診前にケースワーカーから医療券を受け取るなど一定の注意ポイントもあります。

今回は、生活保護における医療扶助について簡単に解説します。

監修者
田中 與志彦
元自治体職員として福祉部局で生活保護ケースワーカーや、環境部局で地球温暖化対策実行計画・環境マネジメントシステム策定などに従事。 現在は行政経験を活かしての記事・コラム執筆や、故郷である京都府宇治市の地球温暖化対策推進パートナーシップ会議のメンバーとして、小水力発電の普及促進や環境保全活動を行っています。

生活保護は最低限度の生活を保証する制度

生活保護とは、国民の生存権を保障している日本国憲法第25条に規定された「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する制度です。

経済的に困窮した人に対して、国が給付を行っています。

日本国憲法第二十五条

すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

引用:日本国憲法 | e-Gov法令検索

生活保護を受けた人がふたたび自立することを目的としており、(申請が通るかは別として)生活に困窮する人は誰でも申請できます。

申請を受け付けする福祉事務所は、原則として生活保護の申請を拒否することはできません。

生活保護で支給される扶助は8種類

生活保護の扶助は、以下の8種類が存在します。

必要に応じて8種類を組み合わされたものが、最低生活費を保障するために支給されているのです。

  • 生活扶助
  • 教育扶助
  • 住宅扶助
  • 医療扶助
  • 介護扶助
  • 出産扶助
  • 生業扶助
  • 葬祭扶助

このうち、病院で治療をうけた際の医療費が支給されるのが「医療扶助」です。

医療扶助(いりょうふじょ)とは

生活保護の受給が決まると、それまで加入が義務付けられていた「国民健康保険」に加入する資格を失うことになります。

その代わり、医療費の全額が生活保護の「医療扶助」から支給されます。

ここでは、生活保護を受ける場合の医療費の支払いについて解説します。

「医療扶助」が適用される

持病などが原因で定期的に病院での治療が必要な場合、受給者は医療扶助の申請を行います。
ケースワーカーは治療の必要性を確認したうえで、「医療券」「調剤券」を発行します。

医療券を持参することで、指定医療機関や調剤薬局での診療・調剤の「現物給付」を受けることが可能です。

医療扶助は金銭での受け渡しではなく、実際の治療などの現物給付が原則です。

扶助の範囲

医療扶助は原則として現物給付であり、支給の範囲は以下の通りです。

  1. 診察
  2. 薬剤又は治療材料
  3. 医学的措置、手術及びその他の治療並びに施術
  4. 居宅における療養上の管理及びその容量に伴う世話その他の看護
  5. 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護
  6. 移送

病院での診察のほか、調剤、手術、在宅医療、入院、移送などの医療行為が医療扶助の対象になります。

一般的に健康保険が適用される医療行為については医療扶助が適用されると覚えておいていいでしょう。

外科や内科だけでなく、歯科も現物支給の対象になります。

【監修者】

国民健康保険以外の社会保険については、生活保護を受給後も加入できます。

生活保護を受けながら就労している場合や、親族の社会保険の扶養に入っている場合などが該当し、その場合は3割の自己負担分のみが医療扶助から支給されます。

その際の医療券の発行手続き等は上記の場合と同様ですが、医療機関の窓口では必ず保険証を提示しましょう。

保険証を提示しなかった場合、社会保険で支払われる7割分の医療費は医療扶助からは支給されないため、7割自己負担となってしまいます。

また、一般ではあまり馴染がありませんが、生活保護で眼鏡を作る場合は「治療材料」として医療扶助から支給されます。

この場合は、まず眼科を受診し、眼鏡の度数などを書いた処方箋をもらって眼鏡屋さんで購入することになります。

眼鏡屋さんでは生活保護費からの支払いでも対応してもらえるかどうかを確認しましょう。

また、眼鏡の値段には上限額が決まっているため、自分の好きなフレームなどを自由に選ぶことはできません。

ファッションの一環として眼鏡を買いたい場合は自己負担となります。

医療扶助を受けると起こること

ケースワーカーの許可を受けて医療扶助を受ける場合、治療を受けるための流れがこれまでの生活とは変わります。

具体的に、どのようなことが変わってしまうのか、解説していきます。

国保の対象外になる

日本では「国民皆保険制度」が実施されているため、日本国民である以上は誰でも治療や調剤などを3割の自己負担で受けることができます。

しかし、生活保護の受給者は「国民健康保険制度」「後期高齢者医療制度」の適用対象外です。
その代わり、医療費の全額が現物支給されることになります。

ただし、中には母子保健法や障がい者総合支援法等の公的負担医療が適用される家庭もあります。

生活保護はあくまで「最後のセーフティーネット」ですから、このように別制度からの補助がある場合、その補助部分が差し引かれた金額が現物支給されることになります。

医療扶助を受けるためには申請が必要

生活保護を受けることになった場合、最初にケースワーカーに申請する必要があります。

申請するとケースワーカーから「医療要否意見書」が渡されるため、申請者は指定医療機関で意見書の内容を記入してもらってケースワーカーに提出します。

入院は1回の入院につき1枚が必要で、入院期間が6ヶ月を超えた場合はその都度必要になるのが原則です。

提出をうけたケースワーカーは内容を精査して医療扶助の可否を決定します。

もし許可を得る前に自分で勝手に治療を受けてしまった場合、医療扶助は適用されません。

医療券の手続きも必要

医療扶助が決定すると、入院・入院外・歯科・調剤など、必要に応じた医療券・調剤券が発行されます。

医療券は歴月ごとに発行され、利用できる指定医療機関が決められています。

月をまたぐと改めて医療券を発行してもらう必要があるため、自宅から福祉事務所が離れている場合は医療券の受け取りが手間になります。

指定医療機関での受診に限られる

医療扶助の範囲は、基本的に国民健康保険と同じです。
入院した場合は入院費が現物支給されますが、個室などを希望する際の差額ベッド代は自己負担です。

先進医療や自由診療による健康保険適用外の治療に関しても、医療扶助は適用されません。

さらに、国民年金との違いとして「必ず指定医療機関で受診が必要」である点です。
それ以外の場所で受診してしまうと、全額自己負担になります。医療扶助を認めてもらうための書類「医療要否意見書」を1医療機関につき1枚の提出が必要なには、このためです。

指定医療機関でない病院で治療を受けてしまった場合、医療扶助は支給されないことを覚えておきましょう。

緊急の場合はどうする?

指定医療機関で受診すると分かっていても、救急搬送で運ばれる時もあるかもしれません。

夜間医療センターは指定医療機関に含まれますから、治療費の心配はいりません。医療券も例外として受診後に発行できます。

問題は「自分の意思で指定医療機関以外の場所で治療を受けた場合」です。

病院の受付では指定医療機関でないことは伝えてくれます。
それでも納得して治療を受けた場合は、医療費の請求は患者本人にいくことになります。

この場合、国民健康保険の加入者でないことから3割負担ではなく10割負担です。

国民健康保険であれば、はじめての病院でも自由に受診することができます。

生活保護の受給者の場合、あらかじめ決められた医療機関以外へのアクセスが制限されることは覚えておく必要があります。

【監修者】

指定医療機関であっても、どこでも自由に受診できるわけではないことに注意しましょう。

例えばひとつの疾患で複数の病院を受診したり、遠方の病院を受診して移送費がかかったりした場合、福祉事務所から受診する病院を指定されることがあります。

これに従わなかった場合は医療費が全額自己負担となります。

セカンドオピニオンを希望する場合や、遠方の病院で診察してもらう必要性がある場合は必ず事前にケースワーカーに相談しましょう。

過剰診療を招きやすいデメリットも

医療扶助は原則として自己負担がありません。

3割負担が原則の国民健康保険の加入者から見れば「何ともうらやましい・・・」と思うかもしれませんね。
しかし、無料で受診できることが必ずしもメリットになるわけではありません。

診療と医薬品の処方を無料で受けることができるため、少しでも違和感がある病院で診察を受けられてしまいます。

本当は病気でも何でもない、あるいは少し様子を見ればいいのに受診してしまう「過剰診療」を招きやすいという問題点があるのです。

診療は歯科・保険診療内の診療費・手術のほか、通院によるリハビリも医療扶助の対象です。
生活保護の受給者はどれだけ治療を受けても自己負担がないため、高頻度入院・高頻度通院につながってしまいます。

医薬品の調剤も同様です。

医薬品はできるだけ量を減らしていくのが望ましいのですが、医療扶助をうける人は医薬品を減らすことになかなか意識が向かないのです。

うつ病などの精神疾患の場合も、向精神薬などを使いすぎる懸念があります。

受給者がたらい回しになる現実も

生活保護の患者の場合、病院を転院させられる問題も顕在化しています。

病院として基本的に治療費をとりっぱぐれることはありませんが、治療が長引くことで治療費が減算され、病院側の負担になる場合があるのです。

そのため、医療費が減算される前に転院させられてしまう通称「ぐるぐる病院」が発生してしまう原因になっています。

医療扶助を受ける際の注意点

これまで紹介してきた内容以外にも、医療扶助を受ける上で知っておきたい注意点がいくつかあります。

  • ケースワーカーによる「病状調査」がある
  • 自己負担が発生するケースがある
  • ケガの種類によっては医療扶助はでない

    いずれも重要な項目ですから、生活保護を検討している人は今のうちからキチンと確認しておきましょう。

    ケースワーカーによる「病状調査」がある

    医療扶助を受けている場合、ケースワーカーが医療機関に訪問して生活保護の受給者の現状を把握することがあります。
    これが「病状調査」です。

    ケースワーカーが医療扶助を受給中の患者の主治医を訪問し、患者及びその家族の指導上必要な意見を伺います。
    委託患者の状況を把握し、適切な生活保護指導を行うために必要です。

    なお、この病状調査は生活保護の受給者に許可を取ることなく、ケースワーカーが独断で行うことができます。

    病状調査の内容は、以下の通りです。

    1. 患者の病状、治癒の見込み期間(入院の場合は、退院の見込み及び退院後の医療の要否)
    2.現に行っている療養上の指示及び患者の受療態度
    3.患者及び家族に関して、福祉事務所に対する意見・要望
    4.外来患者にあっては、就労の可能性及びその程度

    引用元:神奈川県|生活保護法による医療扶助とは

    もしも上記の内容で問題があるとみとめられた場合、主治医と連携しながら患者とその家族に指導・助言を行う事になります。

    自己負担が発生するケース

    生活保護の受給者の収入によっては、医療扶助が支給されても自己負担になる可能性があることを知っておきましょう。

    一か月の最低生活費(生活保護費)が10万円で、収入が11万円、持病の毎月の医療費が3万円かかる家庭で考えてみましょう。

    この場合、11万円の収入の中でやりくりできますので、生活扶助や住宅扶助の現金は支給されません。

    しかし、生活保護を外れて健康保険に入って自己負担で受診した場合、残った1万円では足りませんので、医療扶助のみ生活保護費から支給されることになります。

    このケースですと、3万円の医療費の内、手元に残った1万円は自己負担、残りの2万円を医療扶助で支払うことになります。

    個室を使った場合

    個室を使った場合は差額ベッド代が発生しますが、差額ベッド代については医療扶助の対象にならず、全額が病院から直接請求されます。

    1日5,000円の個室を10日間入院した場合、50,000円に関しては医療扶助が効かないため、ほかに受け取っている扶助(生活扶助)扶助から支払う必要があります。

    注意すべきは「個室しか空いていない」と言われた場合です。

    患者側に負担はないと思われるかもしれませんが、入院日をずらすことができるのにしなかった場合は、やはり入院する患者側が差額別途代を支払う義務があるのです。

    【監修者】

    この他に生活保護で医療機関を受診する場合として「検診命令」というものがあります。

    これは病気で働けないのに病院を受診していなかったり、本人は病気に気付いていなくてもケースワーカーが病院で受診した方が良いと判断した場合などに発行されます。

    ケースワーカーから「この病院を受診しなさい」という受診指導された場合、手渡された検診命令書を持って(福祉事務所から直接医療機関に郵送される場合もあります)速やかに指定された病院を受診しましょう(指定された病院以外を受診することはできません)。

    この命令に従わずに病院に行かなかった場合、生活保護が廃止されることがあります。

    病気がある場合は病気をしっかりと治す、ことも生活保護を受給する上での生活上の義務に含まれるということです。

    また、この検診命令は生活保護受給前でも発行することもできます。

    生活保護の申請中で手持ち金がなくて病院に行けない場合や、自分では鬱状態で働けないと感じるが、まだ受診できておらず診断名がついていない場合などは、申請と同時に病院を受診したい旨を伝えましょう。

    検診命令で受診した分については医療費の自己負担はありません。

    怪我の種類によっては医療扶助が出ない

    例えば国民健康保険の加入者が「第三者行為」による怪我をした場合、「第三者行為による傷病届」を提出して国保が一時的に立て替えることになります。

    一方の生活保護の場合、喧嘩などの第三者行為が原因の場合は医療費が適用されません。

    ケンカや事故が原因でも医療費が出ると安心していると、万が一のときに驚くことになるため注意しておきましょう。

    ケンカによる怪我をしても「嘘をつけばバレないだろう」と思うかもしれませんが、医者は事故による怪我かかケンカによる怪我かは当然に見抜きます。
    「階段から落ちました」とウソをついても無意味です。

    生活保護の申請をする時に、あらかじめ「どんな怪我の場合は医療扶助が支給されないのか」について確認しておくほうが確実でしょう。

    まとめ

    今回は、医療扶助について解説しました。

    あらかじめ病気を申告して医療券を発行してもらうことで、自己負担なく治療や調剤といったサービスを受けることが可能です。

    一方で、無料であることが「過剰診療」を招き、医療現場の負担につながっていることも事実です。

    本記事に記載されているのはあくまでも生活保護制度の例であり、必ず同じように保護が受けられるとは限りません。
    生活保護にはこの他にも様々な特別基準やルールがあり、実際にどのような支援が受けられるかは個別の状況に応じて福祉事務所が決定します。
    実際に保護の相談や申請を行う際は必ずお住まいの地区の福祉事務所(市役所や区役所、保健所の福祉窓口)に直接ご確認ください。

    本当に困っている人が適切な治療を受けるためにも、生活保護の受給者にも一定のモラルが求められています。